相続に関する知識や経験が不足していて、トラブルに巻き込まれるかもしれないという不安を感じたことはありませんか。あるいは、現在トラブルに巻き込まれていませんか。
この記事では、相続紛争(いわゆる、争族)の戦い方を勉強できる本として依田渓一(2022)『負けない相続』(株)中央経済社について紹介します。
こんにちは。ダイチです。
2人の子ども(2歳差)の父親で、家族の絆のためになる情報を共有したいと思っています。
この記事が、親から相続を受ける時や子どもに相続させる時に、円満に相続を進めることができて、家族の絆を深めることに貢献できれば幸いです。
『負けない相続』とは
著者
『負けない相続』の著者紹介によると、著者は三宅坂総合法律事務所のパートナー弁護士の依田渓一さんです。
三宅坂総合法律事務所の弁護士紹介に著者のページがありました。
概要
『負けない相続』は「相続紛争の戦い方」について書かれた本です。
円満な相続ができなくなった場合の相続(相続紛争。いわゆる、争族)においてどのような流れで解決が図られることになるかについて学ぶことができます。
2つの編に分かれていて、第1編を物語編、第2編を解説編とするところに特徴があります。
物語編で、弁護士が関係するような相続紛争の事例3つを小説を読むように読み進めることができます(物語編でも脚注で補足説明があります)。そして、解説編で3つの事例についての解説があり、相続紛争についての理解を深めることができます。
タイトル『負けない相続』の”負けない”の意味については、物語編に言及がありましたので引用します。
遺産分割調停はその性質上、他の相続人の協力なしには解決しません。そのような観点からは、”負けない”ことをベースに、一定の落とし所での現実的な解決を目指すべきなのです。
依田渓一(2022)『負けない相続』(株)中央経済社
物語編
物語編は、本書の約70パーセントを占めます(本文185ページ中129ページ)。
そして、3つの事例(物語)が出てきます。
3つの物語は全く別なのですが、順番に読み進めることで相続紛争の戦い方について読者の理解が段階的に深まる内容になっています。
3つの物語はそれぞれ以下のようなかたちで始まります。
【第1編第1章 闘う勇気がある限り】
結婚できず実家暮らしだが地元の信用金庫で手堅く働く直子。実家で父と暮らし(母は既に他界)、父が亡くなるまで父の介護もしてきた。
父が亡くなり悲しみに暮れるある日、何もかもが正反対(転職をくり返し、できちゃった結婚の末4人の子どもを生む)の没交渉中の妹・明美から「うちは子どもが4人いるから実家に住みたい」「家を出ていって欲しい」と切り出されることに。
(遺産総額2,000万円から1億円程度の遺産分割事件)
【第1編第2章 『三本の矢』とはいうけれど】
長女・光代、長男・義男、次男・友信の三きょうだい。
光代は母が亡くなるまで母と同居し身の回りの世話をしてきた。また、母名義の賃貸マンションを管理してきた。
母の遺産分割にあたって、義男は母の自宅土地は光代が相続して良いが、賃貸マンションは自分に相続させてほしいと言う。
光代は自分が建築から管理までしてきた賃貸物件を譲りたくない。
(遺産総額5億円程度の遺産分割事件)
【第1編第3章 遅咲きのスミレ】
大地主の父を持つ弟・純ニは仕事もせずに親の金で暮らしてきた。
そんななか、父が突然死亡。父は兄に全財産を相続させるという遺言を書いていた。
(遺産総額30億円程度の遺留分侵害額請求事件)
遺産総額だけを見ると自分には関係ないような話と思うかもしれません。
ですが、遺産を分割する時の争いという点では誰にでも起こりうる話です。遺産分割について話し合わないといけない相手が無理難題(今まで住んできた思い入れのある家から出ていってほしい)を言ってきたり、全財産を特定の相続人に相続させるという遺言がある状況は起こりえると思うのです。
特に1つ目の物語は遺産の内容が自宅(の土地・建物)と預貯金が中心の話です。自宅と預貯金が遺産という状況に該当するご家庭はそれなりに多いのではないでしょうか。
さらに、1つ目の物語で妹・明美が実家から現金や宝石を持ち出します。こういうことが起こらないのであれば良いのですが、金目のものを持ち出す相続人がいる(可能性がある)ことを認識しておくことは大事なのではないでしょうか。
3つの物語とも、どうなっていくんだろうと思うような内容ばかりでした。
物語は、相続紛争に巻き込まれることになった登場人物の感情がしっかり表現されています。特に1つ目と3つ目の物語は自分事のように感情移入しながら読むことができました。
特に3つ目の物語「遅咲きのスミレ」は、タイトルと終わり方が好きなパターンでした。
解説編
解説編は、最初(第4章)に相続紛争のパターンを整理したうえで、3つの事例について解説していく流れです。
全体像を整理してから3つの事例の解説に入るので、理解しやすい構成になっています。
そして最後(第8章)で相続紛争で負けないための戦略が書かれています。
物語編で相続紛争の擬似体験をして、解説編で相続紛争の戦い方について学んだ読者が自分事として相続紛争に対応するときにどういった戦略で臨めば良いのかがまとめてあります。
本書全体を通しての
- 事例(物語)
- 事例(物語)の解説
- 戦略について提示
という流れは知識を得るだけにとどまらず、読者の相続紛争における対応力向上に貢献していると思いました。
ダイチの感想
相続とは家族の物語である
第1編の事例(物語)を読んでいて思ったのは、相続とは家族の物語であるということです。
親子の間や兄弟姉妹との間で今まで積もってきた状況や感情が絡み合う問題なんだと思いました。相続紛争にならないように上手く対策しておかないと『負けない相続』に出てくる事例のようにもめることになるのでしょうね。
子どもがいる私としては、残された子どもたちが相続紛争に発展しないように心がけたいと思いました。
本書のような相続紛争にならないように、家族の中でしっかり相続について話し合い、遺言(特に、公正証書遺言)を作ることの重要性を痛感しました。相続対策本と呼ばれるものも読んでみたいと思いました。
物語(第1編)が読みやすい
物語(第1編)は小説のように読み進めることができます。読みやすかったです。
著者の経験を踏まえてできるだけリアルに描いているという旨の記載が『負けない相続』の「はじめに」にありましたが、それは本当だと思いました。
私が特にそう思ったのは以下の部分です。
制度がおかしいのであれば、弁護士ではなく国会議員に相談されるべきです。しかし、法改正はすぐにできるものではありませんから、結論は変わらないと思います
依田渓一(2022)『負けない相続』(株)中央経済社
物語編に出てくる、制度に納得できない依頼人に対しての弁護士のセリフです。
私の勝手な想像なのですが、制度に納得できず文句を言い続ける依頼人に対しては著者も実際にこういう趣旨の発言をする(したことがある)のではないかと思いました。
こういう登場人物同士のリアルなやり取りがあるので、感情移入して読むことができます。
知っておいた方が良い知識が多い
『負けない相続』には知っておいた方が良い知識が多くありました。
例えば、段階的進行モデルです。
段階的進行モデルとは、東京家庭裁判所の遺産分割調停での調停の進め方のことです。
下記の順番で手続が進みます。
- 相続人の範囲の確定
- 遺産の範囲の確定
- 遺産の評価の確定
- 特別受益・寄与分の確定
- 遺産の分割方法の確定
相続紛争になったらこういう流れで解決を図っていくのかを知るという意味で大事ですし、円満に遺産分割を進める時にもこういう流れがあるということを知っていると安心して遺産分割ができそうですね。
また、実務的な知識もありました。
一般的に、相続が発生すると、相続人は誰でも被相続人の預貯金の取引履歴を取得することができるようになる
依田渓一(2022)『負けない相続』(株)中央経済社
取引履歴を取得するための手続は相続が発生してから調べるにしても、この知識を知っているか知っていないかは大きな差になると思いました。
相続紛争になった場合に当事者として何も知らないところからスタートするよりも、本書を読んだことで事前に知識をつけたり心構えを持つことができたことはとても良かったと思いました。
繰り返しになりますが、本書は解説編の最初(第4章)に相続紛争のパターンを整理したうえで、3つの事例について解説していく流れになっています。相続紛争の戦い方の全体像が見えた状態で、事例とその解説をしてくれているので、書かれている内容が理解しやすかったですし、知識を定着させやすかったです。
インターネット上の口コミ
インターネット上の口コミを見てみると、
- 物語形式で相続について学習できる
- 解説編で専門的な用語の説明やより詳細な解説で更に理解が深まりました
- 新しい表現方法で、難しい話を臨場感たっぷりに理解させてくる前編と、体系だって解説してくれる後編の組み合わせが面白かった。この手法はいろいろ使えそう。
というようなおすすめする口コミもある一方で、
- 事例が三つにとどまっており、世にある多くの相続紛争類型を網羅的に抑えていないのが残念
- 著者をモチーフにした主人公が綺羅星過ぎて鼻につきます
- 宣伝本である
というような、基本的には良書であるとしつつもネガティブな口コミも見られました。
事例が3つとどまるという点については、良書なだけに欲を言っている感じがしました。
その他のネガティブな口コミについては、部分的には人によって合わない箇所もあるのかなと思いました。自分に合う完璧な本はありませんからね。
私にとっては、法律を学べる本としての完成度の高さを感じました。
メリットと注意点
『負けない相続』を読むメリットは、
- 相続についての知識を得ることができる
- 相続紛争の戦い方を勉強できる
- 相続紛争で負けないための戦略を持つことができる
です。
本書を読もうとする場合の注意点としては、本書は相続紛争の戦い方を学ぶ本なのであって、相続対策をテーマとした本ではないということです。相続紛争の戦い方をテーマとする中で相続対策にも使えそうな点は出てきます。ですが、相続対策が主ではないということです。
おすすめする人
『負けない相続』を読むことをおすすめする人は、
- 相続(相続紛争)に興味がある人
- 現に相続紛争に巻き込まれている人
です。
私は子どもが生まれて相続に興味を持ちました。相続で家族の絆が壊れてしまうようなことにはなってほしくないですからね。
現に相続紛争に巻き込まれている人は急いで本書を読んでください。仮に弁護士を選任したとしても、自分事として相続紛争の解決を図るためにも本書を読んで知識をつけておく必要があります。
まとめ:知識をつけて相続紛争に備えよう
この記事では、相続紛争(いわゆる、争族)の戦い方を勉強できる本として『負けない相続』という本を紹介しました。
本書は、第1編を物語編、第2編を解説編とするところに特徴があります。
物語編で、相続紛争の事例3つが物語形式で書かれていて、解説編で3つの事例についての解説が書かれています。
本書を読むことで、
- 相続についての知識
- 相続紛争の戦い方
- 相続紛争で負けないための戦略
について学ぶことができます。
- 相続(相続紛争)に興味がある人
- 現に相続紛争に巻き込まれている人
は必読の一冊です。
本書を読んで、親から相続を受ける時や子どもに相続させる時に円満に相続が進むようにして、家族の絆が深まるようにしていきましょう!